鼻がパカパカ、呼吸が苦しい!うさぎの乳腺癌、子宮腺癌

※本コラムでは剖検時の画像があります。苦手な方は閲覧しないでください。
※このコラムの内容は、この患者さんでのケースであり、一般的ではないことも記載されています。個体により状況は異なりますので飼われている伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。
※この度、HPへの掲載にご協力いただいた飼い主様と伴侶動物に感謝申し上げます。

概要

うさぎ(MIX 7歳9ヶ月齢 未避妊雌)が「一昨日から食欲元気が落ちている。」とのことで来院されました。診察室では呼吸が非常に荒く、おなか側の皮膚には2つの大きなしこりがありました。酸素を十分吸わせた後、X線検査を行ったところ、肺とおなかの中にできものが確認されました。いつ亡くなってもおかしくない状態であったため、残りの時間を安心できる自宅での大好きな飼い主さんとの時間に充てることにしました。残念ながら翌々日にご自宅で静かに息を引き取りました。死後は原因究明のために、解剖させていただき、その結果、乳腺癌の全身転移、子宮腺癌が確認されました。

うさぎの呼吸困難について

犬は呼吸が苦しいと口を開けて舌を出し呼吸します(開口呼吸)。猫もとても呼吸が苦しいと開口呼吸をしますね。うさぎさんは呼吸が苦しい場合は、どういった反応をするのでしょう?実はうさぎさんは、犬や猫と違い口で呼吸することができず、ほぼ鼻での呼吸のみです。そのため、犬や猫のように開口呼吸するということはなく、呼吸が苦しい状態とぱっと見ではわかりません。ですが、呼吸が苦しいうさぎさんをよく見ると、鼻をパカパカして一生懸命息をしていることがわかります。この呼吸方法をしている場合はできるだけ早く病院に掛かったほうが良いでしょう。(なお、ウサギも開口呼吸をすることがありますが、息を吸えていない状態で非常に危険な状態です。)

▲来院直後の状態です。呼吸が苦しく、おなかで呼吸しています

▲呼吸が苦しく、一生懸命鼻を動かして呼吸しています

▲胸部のX線検査画像です。赤い点線で囲っている部分は肺ですが、X線の透過性が落ち正常な肺ではありません。青矢印は胸部の皮膚のできものです

▲腹部のX線検査画像です。赤い点線で囲っている部分には、白く丸いできものが写っています。これにより肺への腫瘍の転移が疑われます。黄色の点線で囲った部分には石灰化が認められます。部位から考えると子宮に異常が発生している可能性が高いです。青矢印は下腹部の皮膚のできものです

お預かり中は酸素室に入りできるだけ苦しくないように、検査結果が出るまで待機してもらいました。

臨床診断は「乳腺癌」「子宮腺癌」「がん細胞の肺転移」
病理診断は「乳腺癌」「子宮腺癌」「乳腺癌の全身転移」

残念ながら、肺への転移を起こしているため現状でできることは少なく、また、いつ亡くなってもおかしくない状態だったため、飼い主様と相談し入院治療とせず安心できるご自宅で過ごしながら通院治療としました。
自宅でも酸素室を設置してもらい、できるだけ苦しくないように過ごしてもらいました。 残念ながら、翌々日にご自宅で安らかに息を引き取られました。 原因追究のため、剖検を行わせていただき、うさぎさんがなぜ亡くなったのかを検査しました。

▲胸部にあった腫瘤です。検査の結果、乳腺癌でした。

このうさぎさんにおいては乳腺癌と子宮腺癌が併発しており、乳腺癌のがん細胞が肺や横隔膜、肋骨にまで転移していました。呼吸困難の原因はがん細胞の肺転移により正常な肺がほぼ無くなっていたためです。
※「剖検」とはご遺体にメスを入れ、死因を追究する検査のことです
※剖検は必ずしも行わないといけないものではありません。

飼い主様が剖検を希望される理由として、大切なわが子がどうして亡くなってしまったのか知りたい、納得して前に進みたいという方もいますし、多頭飼育の方で同居の伴侶動物に感染する病気だと嫌だから知りたいという方もいます。逆に、これ以上つらい思いをさせたくないから行わないという方もいます。

※当院では亡くなってしまった患者の飼い主さまには剖検の話をさせていただきます。剖検の話と言っても、決して剖検を勧めているわけではありません。「剖検」という亡くなった原因を調べる手段があるということを知らない飼い主様がおり、後日そのような検査があることを知り後悔される方がいると聞いたため、当院ではお伝えさせていただいております。つらい思いをなさっている飼い主さまにとってさらにつらい決断になることや不快に思われる方がいるのも事実です。私たちも心苦しいのですが、亡くなってから時間がたってしまうと正確な検査ができないため、どうしても剖検のお話をするのは、お亡くなりになられたタイミングとなってしまいます。

うさぎの乳腺癌についてもっとくわしく!

乳腺腫瘍は中年齢以降の未避妊雌うさぎにおいて認められることが多く、良性の乳腺腫瘍と悪性の乳腺癌に大別されます。発生原因は定かではありませんが、他の動物同様性ホルモンの影響が考えられます。悪性腫瘍(乳腺癌)であった場合、転移を起こしてしまうことがあるので早期の切除が望まれます。転移を起こしてしまっている場合は、残念ながら著効する抗がん剤は無く治療は困難になります。また、子宮疾患に併発していることも多く注意が必要で、腫瘤の切除時に同時に子宮卵巣摘出術を行うこともあります。

原因

詳細は究明されていないが、性ホルモンの影響が考えられる

症状

乳腺の腫れ、元気消沈、食欲不振など。がん細胞が肺に転移していると呼吸困難

検査

念入りな触診、X線検査、CT検査など

治療

乳腺腫瘤の摘出、抗がん剤など

予防

早期の子宮卵巣摘出術(避妊手術)

※伴侶動物の症状、状態には個体差があります。伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。このコラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて当院では責任を負いかねます。
※当院では、飼い主様と伴侶動物の協力のもと、多くの伴侶動物ができる限り疾患に罹患しないよう情報を共有するため、個人情報に配慮したうえで伴侶動物の疾患の報告を行っています。
※今回掲載したうさぎさんの飼い主様におかれましてはつらいお気持ちのなか、他のうさぎさんのためホームページへの掲載をお許しいただきまして、感謝申し上げます。また、亡くなってしまったうさぎさんのご冥福をお祈りします。今後も飼い主様のご希望に応えらえるようスタッフ一同尽力いたします。

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