お尻から腸が出ている!?チンチラの腸重積
※手術の画像があります。苦手な方は閲覧しないでください。
※このコラムの内容は、この患者さんでのケースであり、一般的ではないことも記載されています。個体により状況は異なりますので飼われている伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。
※この度、HPへの掲載にご協力いただいた飼い主様と伴侶動物に感謝申し上げます。
概要
チンチラ(2ヶ月齢)が「前日の夜から脱腸をしている。」とのことで来院されました。視診では肛門から腸が脱出しており、一部暗赤色をしていました。ゾンデという先端の丸い金属の棒を脱出部の脇から挿入したところ、5cmほど挿入でき、直腸脱ではなく腸重積が疑われました。腸重積は死亡率が高いため、来院したその日に緊急手術を行い、重積を解除。入り込んでいた腸管の色は一部暗赤色でしたが、整復後血流の改善により色調の改善も確認されたため腸管の切除は行わず温存としました。術後2日後には排便も確認し、4日後に退院としました。およそ2週間後には術部の傷も問題なかったため治療終了としました。
脱腸について
チンチラの脱腸は主に2種類で、「直腸脱」と「腸重積」です。「直腸脱」は、直腸が肛門から脱出した状態で、「腸重積」は空・回腸や結腸と呼ばれる直腸よりもっと上部の消化管が重積という内部に折り重なった(陥入した)状態で脱出してしまった状態です。どちらも見た目には、赤い腸が脱出した状態ですが、腸重積は非常に危険な状態で、早急に手術しないと死に至ることも多いため鑑別が重要です。
▲来院直後の外観です。意識はしっかりしています
▲おなかから見た画像です。消化管が暗赤色になり肛門から脱出しています
▲脱出している腸の脇からゾンデという金属の棒を挿入しています
▲ゾンデを引抜き、長さを測ります。5㎝以上挿入でき、腸重積の可能性が高いと思われました
腸重積は手術、整復しないと死に至る可能性が非常に高い疾患であることをご説明しました。
飼い主様の判断も早く、早急に手術を行うことができました。
▲開腹し、重積となっている部分の腸を整復している動画です。入り込んでいる腸を優しくゆっくり引っ張り出します
▲陥入部分をすべて引っ張り出した後の画像です。陥入していた部分(青矢印)は暗褐色をしていましたが、血流が戻り数分で色調も改善したため、リスクの高い腸の切除は行わずそのまま閉腹としました
▲おなかを閉じた後の画像です
臨床診断は「腸重積」
術後2日目には食欲の改善および排便が確認されました。
術後4日目には食欲、活動性、排便は正常化したため退院としました。
▲術後2週間後の画像です。術創も問題ありません
▲排便もしっかりしており、体調も問題なく、元気です!
チンチラの腸重積についてもっとくわしく!
腸重積とは、ある腸管が隣接する腸管の内腔にはまり込んでいる状態です。外観が似た状態である「直腸脱」との鑑別が重要です。原因としては、異物などによる閉塞、腸炎などによるものなどありますが、特定できないことも多いです。犬や猫ではおなかの超音波検査で特徴的な像が見られますが、チンチラでは体の大きさから困難なことも多いです。治療の第一選択は手術による腸の整復ですが、チンチラの腸は薄く弱いため早期に治療をしたとしても非常に死亡率の高い疾患です。
原因
異物や腫瘍などによる狭窄、閉塞。腸炎などの炎症などが言われているが特定はできていない
症状
多くは消化管が腸から脱出することで来院されます。出血性の下痢、腹部痛、おなかの張り、元気消沈、食欲不振など
検査
X線検査、超音波検査など
治療
開腹手術による重積を起こした腸の整復
予防
特にありません。
※当院では、飼い主様と伴侶動物の協力のもと、多くの伴侶動物ができる限り疾患に罹患しないよう情報を共有するため、個人情報に配慮したうえで伴侶動物の疾患の報告を行っています。改めて、この度、HPへの掲載にご協力いただいた飼い主様と伴侶動物に感謝申し上げます。引き続きこの子の健康維持に向けて尽力してまいります。
※伴侶動物の症状、状態には個体差があります。伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。このコラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて当院では責任を負いかねます。