犬のいぼ、できもの、肥満細胞腫

愛犬に触れた時やトリミングなどで皮膚をみてみると、イボやしこりのような「できもの」があることはありませんか?人間と同じように歳を重ねていくと、皮膚にできものが発生することがあります。大半は良性腫瘍ですが、中には『肥満細胞腫』と呼ばれる悪性腫瘍が含まれています。

肥満細胞腫は悪性度が低いものであれば、外科的に切除することで根治します。しかし、悪性度が高いタイプの場合、転移や腫瘍が大きくなると治療が難しくなります。そのため様子を見すぎると後悔してしまうかもしれません。

肥満細胞腫について病態や治療法など、解説していきます。

肥満細胞腫ってどんな腫瘍?

肥満細胞腫という名前はあまり馴染みが無いかもしれませんね。名前は「~ガン」や「~肉腫」ではありませんが、悪性腫瘍の1つです。それでは肥満細胞腫についてみていきましょう。

肥満細胞腫とは?

肥満細胞腫は「肥満細胞」といわれる細胞が増えてしまい、作られた悪性腫瘍です。「肥満」という単語が入っているので、太った子がなりやすいと思われがちですが、肥満とは関係ありません。犬の皮膚にできる腫瘍には色々なものがありますが、あまり悪さをしない良性腫瘍が大半です。その中で肥満細胞腫は2割程度と言われています。

肥満細胞腫の症状

皮膚にできものが見られ、基本的にはあまり症状はみられません。

しかし、肥満細胞は免疫に関連する細胞で、ヒスタミンという炎症を起こす物質を多く含んでいます。そのため肥満細胞腫を触ると腫れてくることがあります。病態が進行すると腫瘍随伴症候群と言われる、皮膚の赤み・痒み、浮腫、出血やアナフィラキシーショック、胃潰瘍などが現れることもあります。

肥満細胞腫はどんな子がなりやすい?

肥満細胞腫は比較的8~9歳ほどの中高齢に多く見られます。しかし、若い犬も発生することがあります。そのため、年齢が若いからといっても油断はできません。

また、どの犬種にも見られますが、比較的多くみられる犬種としてボクサー、ボストンテリア、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、シュナウザーなどが挙げられます。

そのできもの、肥満細胞腫?!

愛犬の皮膚にできものを発見したら、まずは動物病院に行きましょう。万が一、肥満細胞腫の場合、発見が遅れると治るものも治らなくなってしまいます。それでは、肥満細胞腫の診断方法や治療についてみていきましょう。

肥満細胞腫を診断する

診察では、飼い主さんの情報が頼りです。診察ではいつ発見したかを教えてください。発見した日から病院受診までの間、大きさ、色、出血の有無、犬本人が気にしているか、など詳しく教えてくださると診断の大きな助けになります。

肥満細胞腫の悪性度の診断に関しては、できもの自体を手術で切除して病理検査に出さなければ分かりません。まずは肥満細胞腫の可能性があるか、を診断するために「細胞診」を行います。

細胞診は暴れなければ基本的には無麻酔で行うことができます。できものに針を数回刺し、スライドガラスにとって特殊な液で染色します。痛みに関しては場所にもよりますが、針の太さを考えると採血と同じくらいと思われます。

取れた細胞を染色後に顕微鏡でみることで、肥満細胞腫を診断していきます。

肥満細胞腫が疑われたら

肥満細胞腫が疑われたら、リンパ節やその他の臓器に転移が無いかを確認します。リンパ節の細胞診を行い、腫瘍細胞がないかを調べます。

リンパ節に転移がある場合は、画像検査などでその他の臓器、特に脾臓や肝臓に関しても確認します。

肥満細胞腫の治療について

肥満細胞腫の治療は大きく3つあります。外科的切除、放射線療法、内科療法です。麻酔がかけられるか、転移の有無などで治療を選択します。

外科的切除

転移が見られない場合は、基本的に外科的手術になります。特に悪性度が低い肥満細胞腫であればきちんと切除することで根治します。

まずは血液検査などの術前検査を行い、全身麻酔がかけられる状態かを確認します。問題なければ、全身麻酔をかけ外科的に切除していきます。

肥満細胞腫は肉眼で見える範囲よりも周囲の組織に広がっていることがあるため、できものよりも2~3cm広く切除します。通常のしこりの切除ではここまで大きくとることは少ないので、傷口は飼い主さんの想像よりも大きいと思います。

切除したものは、病理検査に出すことで悪性度が分かります。取り切れなかった場合は再度手術する可能性があります。

放射線療法

エックス線で腫瘍細胞を攻撃する方法です。基本的には外科手術をした後に放射線治療をすることが多いです。それは外科手術をせずに単独では腫瘍細胞が多すぎて根治が見込めないからです。専門の機関でないと実施ができないため、放射線療法まで考える場合は二次施設への紹介が必要になります。

内科療法

肥満細胞腫の転移がみられた時や、悪性度が高い場合に選択します。ステロイド、抗がん剤、分子標的薬に効果が認められます。ステロイドは安価で腫瘍を小さくする作用やヒスタミンを抑える作用がありますが、単独ではあまり使用されません。基本的には抗がん剤と一緒に使用します。

分子標的薬は効果については遺伝子によって決まります。治療の前に「c-KIT遺伝子変異」の有無を調べておくと分子標的薬が効くかどうかが調べられます。

肥満細胞腫の予後について

肥満細胞腫の予後に関しては、悪性度の度合いや腫瘍の成長速度、発生部位や全身状態など様々な要因があり一概にいえません。悪性度が低いものであれば、外科手術で取り切れていれば予後は良いといえます。定期的に他にできものがないかは確認するようにしてくださいね。

まとめ

何気なく見つけたできものは、見つけたらまずは動物病院を受診しましょう。細胞診をすると確定診断とまではいきませんが、おおよその腫瘍の種類が分かることがあります。特に肥満細胞腫は細胞診でも分かることが多いので、疑われる場合は検査をした方が安心です。早期発見することで根治できる可能性がある腫瘍のため、迷ったらまずは獣医師に相談してくださいね。

白田先生

獣医師ライター

獣医師。14年間一般の動物病院に勤務しました。そのあと自分の病院を開業して今年でちょうど10年になります。私もこれからもっと成長していきたいです。得意な分野は消化器、内分泌、眼科です。

※本ライターによる執筆は本ライターに帰属するものであり、その正確性や内容に関してちゅら動物病院がなんら保証するものではありません。

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