犬の僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症とは

  

僧帽弁閉鎖不全症とは犬でもっとも多い心疾患のひとつであり、死因としても3番目に多いとされている疾患です。僧帽弁閉鎖不全と診断された犬は6年以内に11%が死亡すると報告されています。


心臓が全身から受け取った血液を再び全身へと送り出すために、血液を逆流させない仕組みである弁構造に異常がみられる疾患であり、うっ血性心不全とよばれる血液循環が留まる病態を引き起こします。僧帽弁閉鎖不全は犬のうっ血性心不全の原因疾患の3/4を占めます。

僧帽弁閉鎖不全症がよくみられる犬種

僧帽弁閉鎖不全症は中高齢の小型犬でよくみられる疾患であり、キャバリア、チワワ、ダックスフント、ミニチュアシュナウザー、コッカースパニエルなどが好発犬種だといわれています。


特にキャバリアは僧帽弁閉鎖不全症の発症が多い犬種であり、10歳までにほとんどの犬で当疾患がみられます。他の犬種における僧帽弁閉鎖不全症に対する最初の診断は平均12歳であることに対して、キャバリアでは平均6.5歳と発症が早いことも特徴です。

心臓の僧帽弁

心臓は①全身からもどってきた血液を肺へと送り出す右心、②肺から戻ってきた血液を全身へと送り出す左心の2つの構造から成り立っています。さらに右心、左心はそれぞれ心房、心室と2つの空間に分かれています。血液は心房から心室へ向かって流れますが、逆流を防ぐために房室間には弁構造が存在します。


①右心にある弁を三尖弁、②左心にある弁を僧帽弁とよびます。

僧帽弁閉鎖不全症では僧帽弁がきちんと閉まらなくなることにより血液の逆流がおきますが、この原因として僧帽弁の粘膜腫様変性というものがあります。

僧帽弁の粘膜腫様変性

僧帽弁は薄くなめらかな表面をした膜状の弁ですが、犬の加齢に従って僧帽弁は粘膜腫様変性といってなめらかさを失い、形が変形していきます。
この変形には僧帽弁を構成するプロテオグリカンやコラーゲンなどの異常な蓄積や、組織の損傷が関与しています。
粘膜腫様変性は僧帽弁だけに起こるわけではなく、右心の弁である三尖弁に生じることもあります。そのため、犬の僧帽弁閉鎖不全症の30%では三尖弁閉鎖不全症を併発します。
僧帽弁の粘膜腫様変性は加齢性といって年齢が増すことで引き起こされる変化です。犬の僧帽弁閉鎖不全症の有病率と重症度は年齢と関係があると報告されています。また4歳以下で37%、8歳以下で80%の犬において僧帽弁に病変がみられたともいわれています。
犬の僧帽弁閉鎖不全症はキャバリアのような特定犬種で有病率が特に高いことから遺伝的な原因があるのではないかと考えられています。ある研究では遺伝的な発症要因が示唆されていますが、いまだ議論の途中であり結論は出ていません。

僧帽弁閉鎖不全症の症状

僧帽弁閉鎖不全症の症状には運動不耐性と呼吸器症状が主にみられます。

運動不耐性

運動不耐性とは心臓や肺の働きが落ち身体を動かすことが辛いことによる症状です。散歩を嫌がるようになった、疲れやすくなった、よく眠るようになったなどの症状としてみられます。

呼吸器症状

呼吸器症状とは心臓や肺の働きがおちたことによる酸素不足が原因となり引きこされます。苦しそうな呼吸、浅く速い呼吸、咳、口腔内や外陰部などの粘膜色が青白くなるチアノーゼ、口から泡を吐くなどの症状としてみられます。

その他の症状

僧帽弁閉鎖不全症ではうっ血、つまりは血液の循環不全がおき、身体や肢のむくみや、お腹に水が溜まる腹水、腹囲膨満などの症状がみられることがあります。また、心臓の筋肉の障害により不整脈がみられることがあり、失神や突然死などの大きな症状を引き起こすことがあります。

僧帽弁閉鎖不全症の治療

僧帽弁閉鎖不全症の治療では心臓の負担を軽くする、肺の状態をよくする治療薬の投薬などをおこなう内科的療法、僧帽弁の修復などをおこなう外科的療法をおこないます。
中程度から重度の症状に対しては内科的療法をおこない体調の維持をおこないますが、症状は徐々に進行するといわれています。

人間の僧帽弁閉鎖不全症では内科的療法で肺水腫(肺に水が溜まる症状)が管理できなくなったとき、外科的療法をおこなうように推奨されています。
一方、犬の外科的療法は一般的には大学病院などの高度二次診療施設でしかおこなうことができません。僧帽弁閉鎖不全症の犬は小型犬が多いこともあり、人間における乳幼児ほどの心臓に外科的なアプローチをする必要があります。そのため、高度な技術を持つ外科医が所属している診療施設でないと外科的治療をおこなうことが難しい一面があります。

白田先生

獣医師ライター

獣医師。14年間一般の動物病院に勤務しました。そのあと自分の病院を開業して今年でちょうど10年になります。私もこれからもっと成長していきたいです。得意な分野は消化器、内分泌、眼科です。

※本ライターによる執筆は本ライターに帰属するものであり、その正確性や内容に関してちゅら動物病院がなんら保証するものではありません。

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