猫の膀胱炎…獣医師がその症状・原因・治療法を詳しく解説
猫の膀胱炎とは
猫の膀胱炎は、尿石症を含めて「下部尿路疾患(FLUTD)」「猫泌尿器症候群(FUS)」など様々な名称で呼ばれ、泌尿器系のトラブルとして非常に多く見られる病気です。「トイレに何度も行くのに少ししか出ない」「尿に血が混じっている」といった症状で気づかれることが多く、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
年齢や性別を問わず発症しますが、特に2-6歳の成猫、去勢済みの雄猫、室内飼いの猫に多く見られる傾向があります。札幌のような寒冷地では、冬季の水分摂取量減少や運動不足により発症リスクが高まるため、特に注意が必要です。早期発見と適切な治療により、猫の苦痛を軽減し、再発を予防することが可能です。
膀胱炎の主な症状
典型的な症状
猫の膀胱炎では、特徴的な排尿に関する症状が現れます。最も多く見られるのは頻尿で、トイレに頻繁に行くものの少量の尿しか出ない、または全く出ないという状態になります。排尿時に痛みを感じるため、鳴き声を上げたり、排尿姿勢を長時間続けたりすることもあります。
血尿も膀胱炎の重要な症状の一つです。尿が赤やピンク色になったり、血の塊が混じったりします。また、普段とは違う場所での排尿(不適切排尿)も見られ、トイレ以外の場所で排尿することがあります。これは膀胱炎による痛みや不快感が原因で、しつけの問題ではありません。
重篤な症状
膀胱炎が進行すると、より深刻な症状が現れる場合があります。特に雄猫では、炎症により尿道が閉塞し、完全に排尿できなくなる尿道閉塞が起こることがあります。これは緊急事態で、24-48時間以内に治療を行わないと生命に関わる危険性があります。
尿道閉塞の症状には、排尿姿勢を取るが全く尿が出ない、腹部の膨張、嘔吐、食欲不振、ぐったりとした様子などがあります。冬季には室内の暖房により脱水が進行しやすく、これらの症状が悪化する傾向があるため、迅速な対応が必要です。
膀胱炎の原因と分類
特発性膀胱炎(FIC)
猫の膀胱炎の中で最も多いのが特発性膀胱炎(Feline Idiopathic Cystitis:FIC)で、全体の約60-70%を占めます。各種検査をしても明確な原因が特定できない膀胱炎で、ストレスが大きな要因として考えられています。環境の変化、多頭飼育でのストレス、トイレの汚れ、騒音などが誘因となることがあります。
冬季の長期間の室内生活により運動不足やストレスが蓄積し、特発性膀胱炎を発症する猫も少なくありません。この病気は再発しやすい特徴があり、環境管理とストレス軽減が治療の重要な要素となります。
細菌性膀胱炎
細菌感染による膀胱炎は、猫では比較的稀ですが、高齢猫や免疫力が低下した猫、糖尿病などの基礎疾患がある猫で見られることがあります。大腸菌やブドウ球菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入し、炎症を引き起こします。
細菌性膀胱炎では、尿検査により細菌の存在を確認し、抗生物質による治療が効果的です。適切な抗生物質の選択のため、細菌培養検査と薬剤感受性試験を行うことが推奨されます。
結石性膀胱炎
膀胱内に結石が形成されることにより起こる膀胱炎です。ストルバイト結石やシュウ酸カルシウム結石が主な原因となります。結石は膀胱粘膜を物理的に刺激し、炎症や出血を引き起こします。また、結石が尿道に詰まることで尿道閉塞を起こす危険性もあります。
食事の内容、水分摂取量、尿のpHなどが結石形成に影響するため、食事療法と環境管理が治療と予防の中心となります。
診断方法
膀胱炎の診断には、詳細な問診、身体検査、尿検査、画像診断が用いられます。問診では症状の経過、排尿の状況、生活環境の変化などを詳しく聞き取ります。身体検査では腹部の触診により膀胱の状態を確認し、痛みや膨張の有無を評価します。
尿検査は膀胱炎の診断において最も重要な検査です。尿中の白血球、赤血球、細菌の有無、尿比重、pH、結晶の種類などを調べます。新鮮な尿を用いることが重要です。
画像診断では、超音波検査やレントゲン検査により膀胱壁の厚さ、結石の有無、膀胱内の異常などを評価します。これらの検査を組み合わせることで、正確な診断と適切な治療方針の決定が可能になります。
治療法と管理
膀胱炎の治療は原因により異なりますが、① 炎症の軽減と症状の改善、② 原因の除去、③ 再発の予防、の3つが基本となります。多くの場合、複数のアプローチを組み合わせた包括的な治療が必要です。
薬物療法
炎症と痛みの軽減のため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛薬を使用します。細菌性膀胱炎の場合は、細菌培養検査の結果に基づいて適切な抗生物質を選択し、通常7-14日間の投与を行います。
特発性膀胱炎では、膀胱壁を保護するグリコサミノグリカンの補充や、ストレス軽減のための抗不安薬が使用されることもあります。重度の症状がある場合には、尿道カテーテルの挿入や膀胱洗浄などの処置が必要になることもあります。
食事療法と水分管理
膀胱炎の治療と予防において、食事療法は重要な役割を果たします。泌尿器用の療法食は、尿のpH調整、ミネラルバランスの最適化、抗炎症作用のある成分の配合などにより、膀胱炎の改善と再発予防に効果的です。
水分摂取量の増加も極めて重要で、尿量を増やすことで膀胱内の細菌や炎症物質を洗い流す効果があります。寒冷地では冬季に水分摂取量が減少しやすいため、ウェットフードの使用、複数箇所への給水器設置、水温の調整などにより水分摂取を促進します。
環境管理とストレス軽減
特発性膀胱炎では、環境管理とストレス軽減が治療の中核となります。清潔で使いやすいトイレの提供、静かで安心できる環境の確保、規則正しい生活リズムの維持などが重要です。
多頭飼育の場合は、猫の数+1個のトイレを用意し、各猫が安心して使用できるよう配置します。また、フェロモン製剤の使用や環境エンリッチメント(キャットタワー、隠れ場所の提供など)により、ストレスを軽減します。冬季の長期間の室内生活によるストレス軽減のため、室内での運動機会の確保も重要です。
予防と再発防止
膀胱炎の予防には、日常的な健康管理と環境整備が重要です。十分な水分摂取の確保、バランスの取れた食事、清潔なトイレ環境の維持、ストレスの軽減、適度な運動などが基本となります。
札幌市にあるちゅら動物病院では、膀胱炎の既往がある猫に対して定期的な尿検査を推奨しており、再発の早期発見に努めています。また、飼い主様には日常の観察ポイントをお教えし、症状の変化を早期に発見できるようサポートしています。
頻尿、血尿、排尿時の鳴き声、トイレ以外での排尿などの症状が見られた場合は、速やかに動物病院を受診することが重要です。特に雄猫で排尿が全くできない場合は緊急事態のため、直ちに受診してください。早期の対応により、愛猫の苦痛を軽減し、重篤な合併症を予防することができます。