猫の急性腎障害…獣医師がその症状・原因・治療法を詳しく解説

猫の急性腎障害とは

猫の急性腎障害(Acute Kidney Injury, AKI)は、数時間から数日という短期間で腎機能が急激に低下する緊急疾患です。慢性腎臓病とは異なり、適切な治療により腎機能の回復が期待できる場合もありますが、治療が遅れると生命に関わる危険性があります。

急性腎障害は年齢を問わず発症する可能性があり、若い猫でも突然発症することがあります。原因により腎前性、腎性、腎後性の3つに分類され、それぞれ異なる治療アプローチが必要です。札幌のような寒冷地では、冬季の水分不足や凍結防止剤による中毒など、季節特有のリスク要因があるため特に注意が必要です。

急性腎障害の主な症状

初期症状

急性腎障害の初期症状は非特異的で、他の疾患と区別が困難な場合があります。最も多く見られる症状は嘔吐で、突然激しい嘔吐が始まることが多く、食事に関係なく続きます。食欲不振も早期に現れる症状で、好物でも全く口にしなくなります。

元気消失も重要な症状で、普段活発な猫が急にぐったりとして動きたがらなくなります。また、多くの場合で脱水症状が見られ、皮膚の弾力性低下、歯茎の乾燥、目の落ち込みなどが観察されます。

進行期症状

急性腎障害が進行すると、より深刻な症状が現れます。尿量の変化は重要な指標で、初期には無尿(全く尿が出ない)や乏尿(尿量の著明な減少)が見られることが多く、回復期には逆に多尿になることがあります。

口臭(尿毒症臭)が強くなり、口の中に潰瘍ができることもあります。体温の低下、意識レベルの低下、痙攣、昏睡状態などの神経症状も現れる可能性があります。これらの症状は尿毒症の進行を示しており、緊急治療が必要です。

重篤な症状

治療が遅れると、生命に関わる重篤な症状が現れます。高カリウム血症により不整脈が起こり、心停止のリスクが高まります。肺水腫により呼吸困難が生じ、酸塩基平衡の異常により代謝性アシドーシスが進行します。

これらの症状が見られた場合は、数時間以内に治療を開始しないと生命に危険が及ぶため、直ちに動物病院での集中治療が必要になります。

急性腎障害の原因と分類

腎前性急性腎障害

腎前性急性腎障害は、腎臓への血流減少により起こります。最も多い原因は脱水で、下痢、嘔吐、発熱、水分摂取不足などにより体内の水分が不足することで発症します。ショック状態、心疾患、麻酔による血圧低下なども原因となります。

北海道などの寒冷地では冬季に水分摂取量が減少しやすく、暖房による室内の乾燥も脱水を助長します。また、雪や氷を食べることによる体温低下も血流減少の原因となることがあります。

腎性急性腎障害

腎性急性腎障害は、腎臓自体の障害により起こります。最も重要な原因は中毒で、ユリ科植物、エチレングリコール(不凍液)、薬物などによる中毒が挙げられます。感染症(腎盂腎炎、レプトスピラ症など)、免疫介在性疾患、腎臓への直接的な外傷なども原因となります。

北海道では、冬季に使用される凍結防止剤(エチレングリコール含有)による中毒事故が発生することがあるため注意が必要です。

腎後性急性腎臓病

腎後性急性腎障害は、尿路の閉塞により尿の排出が妨げられることで起こります。尿道結石による尿道閉塞、膀胱腫瘍、前立腺疾患、尿道狭窄などが原因となります。特に雄猫では尿道が細いため、結石による閉塞が起こりやすくなります。

外傷による尿路の損傷や、手術後の合併症として尿路閉塞が起こることもあります。これらの場合、閉塞の解除により腎機能の回復が期待できるため、迅速な診断と治療が重要です。

診断方法

血液検査

血液検査は急性腎障害の診断において最も重要な検査です。血中尿素窒素(BUN)とクレアチニンの急激な上昇が特徴的で、これらの値は腎機能の低下を反映します。電解質(ナトリウム、カリウム、リン)、酸塩基平衡、血糖値、血球計算なども同時に評価します。

特に高カリウム血症は生命に関わる緊急事態であり、心電図検査により不整脈の有無を確認します。血液ガス分析により酸塩基平衡の状態を評価し、代謝性アシドーシスの程度を把握します。

尿検査

尿検査では尿量、尿比重、蛋白尿、血尿、細菌感染の有無を調べます。急性腎障害では尿比重の低下、蛋白尿、顕微鏡的血尿が見られることが多く、尿沈渣により腎臓の障害程度を評価できます。

尿量の測定は治療効果の判定にも重要で、カテーテル留置により正確な尿量を測定することがあります。また、尿中の特殊な検査により中毒物質の検出を行う場合もあります。

画像診断

超音波検査により腎臓の大きさ、形状、内部構造を評価します。急性腎障害では腎臓の腫大や、皮質の異常な高エコーが見られることがあります。また、尿路閉塞の有無、膀胱の状態、腹腔内の異常も同時に確認できます。

レントゲン検査では尿路結石の有無、腎臓の位置や大きさの異常を評価します。造影検査により腎機能や尿路の通過性を詳細に評価することも可能です。

治療法

輸液療法

輸液療法は急性腎障害の最も重要な治療法です。脱水の補正、電解質バランスの調整、腎血流の改善を目的として行われます。輸液の種類、量、速度は猫の状態により慎重に決定し、心機能や肺の状態を監視しながら行います。

原因に応じた治療

中毒が原因の場合、可能であれば解毒剤の投与や胃洗浄を行います。ユリ中毒では活性炭の投与などが行われます。

尿路閉塞が原因の場合、カテーテル挿入や外科手術により閉塞を解除します。感染症が原因の場合、適切な抗生物質による治療を行います。原因の除去が早ければ早いほど、腎機能の回復が期待できます。

支持療法

嘔吐に対する制吐剤の投与、胃酸過多に対する制酸剤の使用、栄養サポート、体温管理などの支持療法も重要です。高カリウム血症に対してはカルシウム製剤、インスリン・グルコース療法、などを使用します。

重篤な場合には血液透析や腹膜透析などの腎代替療法が必要になることもありますが、猫では技術的に困難な場合が多く、専門的な施設での治療が必要です。

予後と回復

急性腎障害の予後は原因、重篤度、治療開始時期により大きく異なります。腎前性や腎後性の急性腎障害で早期に治療が開始された場合、完全な回復が期待できることも多くあります。しかし、腎性の急性腎障害や治療が遅れた場合、慢性腎臓病に移行することがあります。

回復期には多尿が見られることが多く、大量の尿が産生されるため、適切な水分と電解質の補給が必要です。回復後も定期的な腎機能の監視により、慢性腎臓病への移行の有無を確認します。

予防と注意点

急性腎障害の予防には、原因となるリスク要因の回避が重要です。中毒物質(ユリ科植物、不凍液、人間用医薬品など)を猫の手の届かない場所に保管し、脱水を防ぐための十分な水分摂取を確保します。

札幌市にあるちゅら動物病院では、定期的な健康診断によりその伴侶動物個別の腎機能の基準値および変化を把握し、異常の早期発見に努めています。

嘔吐、食欲不振、元気消失、尿量の変化などの症状が見られた場合は、時間を置かずに動物病院を受診することが重要です。急性腎障害は時間との勝負であり、早期の治療開始により愛猫の命を救うことができます。少しでも異常を感じたら、迷わずご相談、ご来院ください。

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