犬の膿皮症
犬の皮膚構造
犬の皮膚は大きくわけて①表皮、②真皮、③皮下脂肪織の3つの層から構成されています。
表皮はもっとも表面に位置し、皮膚のバリア機能に非常に重要な働きを持ちます。角化扁平重層上皮とよばれる角質化した薄い細胞が折り重なった厚い層で構成されます。
真皮は表皮と基底膜とよばれる薄い膜を隔てて存在します。真皮の大部分はコラーゲンなどの成分からなる細胞外マトリクスとよばれる皮膚組織の骨組みであり、毛細血管やリンパ管、毛包などが埋め込まれています。毛包は被毛の根っこに位置する組織であり、脂腺や汗腺などを含みます。
表皮と真皮の下部には皮下脂肪の塊である皮膚脂肪織が存在します。
膿皮症とは
犬で一般的にみられる皮膚の細菌感染症であり、10~15%の罹患率があるとされています。正常な皮膚にも存在するブドウ球菌の仲間(Staphylococcus pseudintermedius)がほとんどの原因を占め、皮膚表皮が担うバリア機能が壊れてしまうことで感染を引き起こします。
膿皮症は病変の深さにより①表在性膿皮症、②深在性膿皮症に分けられます。①は犬でよくみられる膿皮症であり表皮や毛包に細菌が感染します。②は真皮や皮下脂肪織にみられ、健康な犬ではまれな疾患です。
表在性膿皮症
表在性膿皮症のほとんどはなにかしらの疾患が原因となり引き起こされます。多くの場合ではアトピー性皮膚炎が基礎疾患になります。
当疾患では①表在性細菌性毛包炎、②水疱性膿痂疹、③表皮小環の3つのタイプがみられます。犬でもっともみられる表在性膿皮症は表在性細菌性毛包炎であり、表皮と毛包に細菌が感染します。水疱性膿痂疹は人の「とびひ」と同様の疾患であり水疱の形成が特徴です。表皮小環は皮膚に円形の病変がみられ、かつては他の表在性膿皮症でみられる毛包における病変の痕だと考えられていましたが、毛包に無関係である表皮単体の細菌感染症であると報告されています。
表在性膿皮症はメチシリン耐性ブドウ球菌などの薬剤耐性菌や、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患によって、症状が治りにくく、治療してもなんども再発するようになる可能性があります。
アトピー性皮膚炎
表在性膿皮症を引き起こす原因となるアレルギー性疾患です。生後6カ月から3年の若齢犬に多くみられます。犬の罹患率は10~15%だといわれています。遺伝的に発症リスクが高い動物がハウスダストや花粉、カビなどの環境アレルゲンに触れることで引き起こされ、耳やお腹、脇や股などに強いかゆみと皮膚炎を引き起こします。
深在性膿皮症
免役不全やニキビダニ症、ツメダニ症などの寄生性の皮膚炎が原因となり皮膚深部に細菌が感染する疾患です。広範囲の皮膚の変色や潰瘍、染み出した体液や壊死組織による痂皮の付着などの重い症状がみられます。
深在性膿皮症の中には急性湿疹性皮膚炎やホットスポットとよばれる梅雨時や雨の散歩後などの湿度の高い環境で、健康な状態からいきなり症状があらわれる皮膚炎もあります。急性湿疹性皮膚炎は重い基礎疾患に続発する深在性膿皮症とは少し異なり、被毛や皮膚によごれや湿気を含みやすいアンダーコートの長い犬でよくみられる疾患です。
膿皮症の症状
表在性細菌性毛包炎では赤くぽつぽつと膨らんだ病変である紅斑性丘疹や膨らみに膿が含まれる膿疱、滲出してきた体液や膿が乾燥し、かさぶたやふけのようになった痂皮などの症状がみられます。また、表皮小環が形成されている場合には、円形の紅斑や環状の痂皮がみられます。
膿皮症の基礎疾患による症状
表在性細菌性毛包炎や表皮小環でみられる症状にくわえ、掻痒感や脱毛症、皮膚が浅黒く変色し肥厚、変形する苔癬化や、色素沈着などの症状がみられることがありますが、これらの症状は膿皮症の基礎疾患による症状である可能性があります。
膿皮症の慢性化や再発を防ぐためには基礎疾患の治療が重要であり、獣医師は多くの皮膚症状から膿皮症と基礎疾患の症状を区別する必要があります。犬をもっとも詳しく観察することができるのは飼い主です。犬の皮膚におきている異変により注意を払い、問診の際に獣医師に伝えるようにしてください。
膿皮症の治療
膿皮症を罹患している犬の最大59%でみられるとされる薬剤耐性菌にうまく対処することが膿皮症の治療の成功には重要になります。これらの細菌は抗生物質の乱用や不適切な使用により発生するため、できる限り少ない量の抗生物質により治療をおこなっていきます。
膿皮症の治療法には抗菌シャンプーや軟膏を使用する局所療法と、抗生物質の内服や注射による全身療法があります。局所療法は軽度の表在性細菌性毛包炎などに適用され、一方、全身療法は病変が広がってしまった表在性膿皮症や、深在性膿皮症で適用されます。
初期の表在性細菌性毛包炎における抗菌シャンプーを使用した局所療法では、初期の抗生物質による全身療法と同等の効果があると報告されていますが、週に2~3回の入浴と、入浴中の10分間の抗菌シャンプーへの接触を症状が良くなってから7日後まで続ける必要があり、飼い主にとって負担になる場合があります。
白田先生
獣医師ライター
獣医師。14年間一般の動物病院に勤務しました。そのあと自分の病院を開業して今年でちょうど10年になります。私もこれからもっと成長していきたいです。得意な分野は消化器、内分泌、眼科です。
※本ライターによる執筆は本ライターに帰属するものであり、その正確性や内容に関してちゅら動物病院がなんら保証するものではありません。