犬のアトピー性皮膚炎

犬アトピー性皮膚炎とは

遺伝的にアレルギーを起こしやすい犬が、アレルギー物質(アレルゲン)に接触することによって引き起こされる、強いかゆみを伴う皮膚炎です。食物アレルギーによる皮膚炎も含まれるとされています。花粉などがアレルゲンの場合は季節性ですが、ヒョウヒダニと呼ばれる、ほこりなどに含まれる小さなダニがアレルゲンであるケースが多く、その場合は季節に関係なく見られます。
2010年に下記の臨床徴候8項目が提示され、5項目以上を満たしたら犬アトピー性皮膚炎とすることが一般的です。この基準は現在、世界中で標準基準として推奨されています。

犬のアトピー性皮膚炎を診断するには、特徴的な症状があるかを確認することが必要です。

アトピーの症状

生後6ヶ月齢から3歳齢の若い頃に発症しやすく、年齢を重ねていけば、かゆみは強くなります。かゆみが特徴的にみられるのは、手肢の指間、わきの下、お腹、下腹から内股にかけての部分、関節の曲がる部分の皮膚にみられます。強いかゆみのために、ずっと患部をかきむしったり、かんだり、こすったりする様子がみられます。

多くのアトピー性皮膚炎では外耳炎を併発します。外耳炎では悪臭がする黒い耳垢の排出や、耳の発赤などの症状がみられます。

症状が進行することで、皮膚の状態がさらに悪化していきます。痒みによりひどく掻きむしることが原因の外傷や、脱毛、染み出てきた体液がふけやかさぶたのように固まる痂皮、皮膚の色が変色する色素沈着、皮膚が厚くなり滑らかさを失う苔癬化などの症状がみられるようになります。

アトピー性皮膚炎のアレルゲンが食物の場合、嘔吐、下痢、便がなかなか出ないなどの消化器症状が併せてみられます。このような症状の犬の2/3では肛門周囲の痒みを持っていると報告されています。また、アレルゲンである食物がよく接触する顔回りや口元の皮膚症状も特徴的です。

アトピー性皮膚炎と関係がある疾患

外耳炎

犬の耳介から鼓膜までを外耳といいます。外耳炎は皮膚に常在する細菌や酵母(マラセチア)、ミミヒゼンダニなどの病的な寄生虫によって引き起こされる疾患であり、耳垢の増加や悪臭、耳の痒いなどの症状がみられます。皮膚に常在する細菌、マラセチア性の外耳炎はアトピー性皮膚炎による皮膚環境の悪化によってよくみられる疾患であり、アトピー性皮膚炎における耳の発赤などの症状は、これらの感染症が一般的な原因だといわれています。

膿皮症、マラセチア性皮膚炎

膿皮症はブドウ球菌の一種(Staphylococcus pseudintermedius)が引き起こす皮膚表面や、被毛の根元にある組織である毛包の感染症です。皮膚の発赤やにきびのような点状の病変がみられます。
マラセチア性皮膚炎は皮膚に常在する酵母の一種であるマラセチア(Malassezia pachydermatis)が異常に増殖することによる皮膚炎です。犬の耳の臭いと同様の独特な臭気がある病変を形成します。
膿皮症やマラセチア性皮膚炎の病原体はどちらも健康な皮膚では悪さをしませんが、アトピー性皮膚炎における皮膚バリア機能の障害により感染症を引き起こします。また、感染症により皮膚がダメージを受けると、アレルゲンが体内に侵入しやすくなりアトピー性皮膚炎自体も悪化すると考えられます。

遺伝的になりやすい犬種(遺伝的素因)

柴犬、シーズー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、シェットランド・シープドッグ、フレンチブルドック、ボストン・テリア、トイプードルなどの犬種は、遺伝的にアトピー性皮膚炎を発症しやすいことで知られており、Mix 犬である犬もこれに含まれます。

皮膚のバリア機能障害

皮膚が乾燥した状態や、あぶらっこい状態(脂漏症)になり、角質層のセラミドが上手く作られず、皮膚のバリア機能が働かなくなります。こうしてアレルゲンが皮膚に入りこみアトピー性皮膚炎を発症します。皮膚のかゆみにより、炎症、発赤、脱毛、色素沈着が起こります。アトピー性皮膚炎と一緒に起こる皮膚病に膿皮症、マラセチア性皮膚炎が知られています。

アレルゲンを回避する方法

アレルゲンに対しては、じゅうたんを止めてフローリングにする、空気清浄機を設置するなどがあります。屋外のアレルゲン(スギ、ヒノキ、ブタクサなど)が出る季節には散歩を止めるか短時間にします。帰ったら、こまめに濡れタオルで拭いたり、ブラッシングをして体に付着したアレルゲンを落としましょう。

診断と治療

パッチテスト、皮内試験、血清中IgE濃度測定

アトピー性皮膚炎を診断、治療するためには、犬が何のアレルゲンに反応して症状を引き起こしているのかを調べる必要があります。アレルゲンの検査方法には①パッチテスト、②皮内試験、③血清中IgE濃度測定があります。

①や②は少量のアレルゲンを①皮膚表面、②皮膚内に曝露(アレルギー反応を引き起こすこと)します。何種類ものアレルゲンを検査し、皮膚に発赤や腫れなどの症状がみられるものを調べます。

③では血液から細胞成分などを取り除いた液体(血清)に含まれるIgEとよばれる抗体の量を測定します。抗体はアレルゲンに反応し産生される蛋白質です。

くわえて、食物アレルギーが関係しているアトピー性皮膚炎の検査では、除去食とよばれる特定のアレルゲンが取り除かれた食事の種類を変えながら与えることで、皮膚症状を引き起こしているアレルゲンを特定します。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療ではステロイドや免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤などの過剰反応している免疫機能を抑える薬を使用します。外耳炎や膿皮症などが合併症としてみられる場合には抗生物質などを併せて使用します。
分子標的薬とよばれる比較的新しいタイプの薬を使用することもあります。アトピー性皮膚炎における分子標的薬では、炎症を引き起こすホルモンの流れを阻害することで皮膚症状を抑えます。
また、軽いアトピー性皮膚炎の犬では週に1回のぬるま湯での入浴によって症状が軽くなると報告されています。アトピーに効果的な入浴方法については後述します。

アトピー治療に使われる薬

プレドニゾロン(ステロイド)

かゆみを止めるためにプレドニゾロンを使用します。副作用が非常に強いため、長くは使えません。

シクロスポリン(免疫抑制剤)

かゆみを止めるためにシクロスポリンを飲みます。副作用は、免疫を抑制するため、ウイルスなどの感染に弱くなりことや、歯肉がモリモリ育ってくる歯肉肥大症があります。

オクラシチニブマレイン酸塩

かゆみを止めるためにオクラシチニブマレイン酸塩を飲みます。副作用が少なくステロイドや免疫抑制剤よりも安全性が高いため、一年以内であれば長期服用も可能です。 最長630日間にわたる投与を行った臨床試験では、有効かつ安全に症状改善に貢献したことが分かっています。

抗生物質

膿皮症を併発したら使用します。内服薬と注射薬があります。

抗菌剤

マラセチア皮膚症を併発したら飲みます。

減感作療法

ダニが原因で犬アトピー性皮膚炎の症状が出ているのか確かめる検査が必要になります。副作用は粗抗原よりも不純物が少なくしてあるため出にくいです。抗原蛋白を高濃度で投与できるため、それまでの抗原液に比べて効果の発現が早いことも特徴です。

イヌ化、イヌILー31モノクローナル抗体製剤

抗体医薬のロキベトマブは、2019年に犬で認可された薬です。動物病院で皮下注射します。1日ぐらいで効果が期待できますが、効果が全く出ない犬もいます。薬の効果が出る、出ないは注射を打たないとわかりませんが、副作用は少ないです。

犬アトピー性皮膚炎とお風呂について

お湯の温度

熱いお湯で犬の皮膚、被毛を濡らすと、血流がよくなりかゆみがひどくなりますので止めましょう。犬の体温より低いぬるま湯で、十分に時間をかけて皮膚、被毛を濡らし、この段階でできるだけ汚れを落としましょう。

シャンプーとスキンケア

シャンプーは保湿成分配合で低刺激性の製品で洗います。保湿成分配合のシャンプーでも使用後は皮膚が乾燥しますので保湿剤を必ずつけましょう。

ドライヤー

全身の毛が湿ったままだとにおいや皮膚炎の悪化につながります。吸水性が良いタオルで十分に体を拭いて、ドライヤーは低温度で体に近づけ過ぎないようにして乾かしましょう。

犬アトピー性皮膚炎は、治療の難しい病気です。犬アトピー性皮膚炎で、お悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度当院にご相談ください。

白田先生

獣医師ライター

獣医師。14年間一般の動物病院に勤務しました。そのあと自分の病院を開業して今年でちょうど10年になります。私もこれからもっと成長していきたいです。得意な分野は消化器、内分泌、眼科です。

※本ライターによる執筆は本ライターに帰属するものであり、その正確性や内容に関してちゅら動物病院がなんら保証するものではありません。

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犬のアトピーとドッグフード

犬のアトピーは、ドッグフードが原因であると疑われるケースもあります。実際、オーガニックドッグフードに変えたところ、改善されたという事例も複数見られるようです。

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