え!?奇形!?横隔膜を超えた消化管の脱出

※吐いた物の画像があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
※このコラムの内容は、この患者さんでのケースであり、一般的ではないことも記載されています。個体により状況は異なりますので飼われている伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。
※この度、HPへの掲載にご協力いただいた飼い主様と伴侶動物に感謝申し上げます。

概要

犬(シーズー 1歳9ヶ月齢 未避妊雌)が、別件で来院した際にX線検査を行ったところ、心膜腔(心臓が収まっている袋)内に消化管と思われる陰影を認めました。後日、消化管造影検査で消化管が心膜腔内に逸脱していることを確定し、「心膜横隔膜ヘルニア」と診断。手術による整復を行いました。術後3日間は入院し、経過を観察しましたが異常は認めなかったため退院とし、2週間後に抜糸を行いました。その後も、異常は認めず元気に過ごしています。

ヘルニアについて

「ヘルニア」とは、体の一部分や臓器が本来あるべき場所から飛び出てしまっている状態を言います。よく聞くものに「椎間板ヘルニア」というものがありますが、椎骨と椎骨の間にある椎間板という物質が脊髄側に飛び出してしまった疾患です。他にも、「臍ヘルニア(=でべそ)」「鼠経ヘルニア」「腹壁ヘルニア」「会陰ヘルニア」などがあります。この患者さんの場合は、先天的に心膜と横隔膜にトンネルができてしまい、消化管がその穴を通って心膜腔内に飛び出ている「心膜横隔膜ヘルニア」という疾患でした。あきらかな臨床症状を示すことが少ないため、今回偶発的に発見されました。

▲初診時のX線画像です。通常は、心臓の陰影の部分にこのように黒い影は認めません(矢印)

▲消化管造影検査の画像です。胃内にある造影剤が腸に流れていきます。正常では、消化管は腹腔内にのみ存在するため、造影剤が胸部に流れていくことはありません。また、胸部で映し出された消化管は心膜腔内にのみ存在することがよくわかります

▲麻酔をかけ、仰向けになっている状態の画像です。外観上では異常がわかりません

▲開腹後の横隔膜の画像です。大きく横隔膜に穴(黄矢印)が開いており、その中に消化管(青矢印)が入り込んでいるのがわかります

▲入り込んでいる消化管と脂肪を丁寧に引っ張り出したところです。幸い癒着もなく、スムーズに取り出せました。穴(黄矢印)の奥に見えるのが心臓です

▲横隔膜を縫って穴を塞ぎます。これで再度消化管が脱出することはありません

臨床診断は「心膜横隔膜ヘルニア」

麻酔からの覚醒は問題なく、経過観察として手術後3日間入院とし経過をみました。術後も問題がないため、抗生物質や鎮痛剤などの内服薬を処方し退院としました。 4日後の診察でも体調は問題ありませんでした。 さらに14日後に完全な傷の治癒を確認して治療終了としました。

▲治療終了時の画像です

心膜横隔膜ヘルニアについてもっと詳しく!

心膜横隔膜ヘルニアは、母体の中で体を形成するときに発生する先天的異常で、腹腔と心膜腔の連結が塞がっていない疾患です。臨床症状が一定ではなく、間欠的であることから診断される時期が遅くなることが多い。そのため、健康診断による早期発見が重要です。

原因

先天的異常

症状

症状はあまり示さないが、消化器症状(食職不振、嘔吐、下痢など)、心疾患症状(活動性の低下など)、呼吸器症状(呼吸困難など)が見られることがある

検査

身体検査、X線検査、超音波検査、消化管造影検査、CT検査など

治療

外科治療が第一選択肢

予防

特になし

※伴侶動物の症状、状態には個体差があります。伴侶動物で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。このコラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて当院では責任を負いかねます。
※当院では、飼い主様と伴侶動物の協力のもと、多くの伴侶動物ができる限り疾患に罹患しないよう情報を共有するため、個人情報に配慮したうえで伴侶動物の疾患の報告を行っています。改めて、この度、HPへの掲載にご協力いただいた飼い主様と伴侶動物に感謝申し上げます。引き続きこの子の健康維持に向けて尽力してまいります。

犬の診療

9:30〜12:30
13:30〜15:15 - - - -
16:30〜19:00

011-788-9000

予約する

受付終了は診療終了時刻の30分前になります